膵腫瘍の種類

「膵臓に腫瘍があります」と診断された方、膵腫瘍も良性から悪性まで幅広く存在します。一般的に多い膵腫瘍は、膵臓癌、膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)、膵神経内分泌腫瘍 (NEN:neuroendocrine neoplasm))、膵嚢胞性腫瘍(MCN)、漿液性嚢胞性腫瘍(SCN)などです。悪性腫瘍であっても、比較的予後の良いものから非常に悪いものまでさまざまです。
膵臓がん(膵管癌)
膵臓がん(膵管癌)は消化器癌の中で最も悪性度の高い癌です。膵臓がんとは膵臓から発生した悪性の腫瘍のことを指しますが、一般には膵管癌のことをいいます。膵管癌は膵管上皮から発生し、膵臓にできる腫瘍性病変の80-90%を占めています。全国統計では肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がんについで死因の第5位でした。近年増加傾向にあり、毎年3万人以上の方が膵がんで亡くなっています。やや男性に多く発症し、喫煙、膵がんの家族歴、糖尿病、慢性膵炎などとの関連が指摘されています。
病気の進行度はT因子(腫瘍の大きさや状態)、N因子(リンパ節転移の個数)、M因子(遠隔転移:肝、肺、腹膜など)により決定されます。 またT因子およびM因子により①切除可能膵癌(R)、②切除可能境界膵がん(BR)、切除不能膵がん(URM、URLA)に分かれます。
膵腫瘍の診断
膵腫瘍を診断するための検査は一般に、腹部超音波検査(腹部エコー)、CT検査、MRI検査、内視鏡的膵管造影検査(ERCP)、超音波内視鏡検査(EUS)などが挙げられます。腫瘍の種類によって、超音波内視鏡下生検で細胞を採取して病理検査(顕微鏡検査)を行います。
前述のとおり腫瘍の種類によって、治療方法もさまざまあります。悪性度の高い膵臓癌(膵管癌)についてお話しします。
―膵がんー
膵がんは悪性度が高く、進行が早いがんとして知られています。 当科では、初めて受診されてから治療に移るまで、なるべく早いスケジュールで検査、診断を行い、最速で治療を開始できるシステムを構築しています。
治療方法
治療は膵がんの進行度や患者さんの体力や健康状態によって異なります。手術は最も効果が期待できる治療法ですが、膵がんが進行している場合は、手術よりも化学療法から開始することもお勧めしています。当科では、膵がんを克服するために一番有効な治療戦略を患者さん提供できるよう、消化器内科や腫瘍内科の専門医と協力体制を作って対応しています。
膵臓癌の治療方法は①手術療法、②化学療法、③放射線療法の三つに大きく分かれます。基本的には診療ガイドラインに則って治療を行っていきます。
膵臓癌治療のアルゴリズム
アルゴリズムに示したとおり、標準治療としてR膵癌、BR膵癌に対しては術前化学療法→手術療法→術後補助化学療法を行います。UR膵癌に対しては化学療法、化学放射線療法を行います。治療の効果があった場合に根治目的とした手術療法(conversion surgery)を行うことがあります。

化学療法の種類
化学療法の内容は膵癌診療ガイドラインに則り、ジェムザール+アブラキサン療法、FORFIRNOX療法をはじめとした各種抗がん剤治療を行っています。
手術療法
現在、根治を目的とする場合は、手術を行う必要があります。手術は、がんの局在(どこにできたか)により
①膵頭十二指腸切除術、②膵体尾部切除術、③膵全摘術、④膵中央切除術
があります。主要血管に癌が浸潤した場合には、根治目的とした主要血管(門脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈)の合併切除再建の高難度膵切除術も行っております。
膵切除術のアプローチ方法
患者さんの全身状態や癌の進行度によって
1)開腹手術、2)腹腔鏡手術、3)ロボット支援手術があります。
ロボット支援膵切除術
ロボット支援膵切除術は2020年4月に保険収載されていますが、当院でも膵切除術の低侵襲化を目的として、2023年1月よりDavinci(ダヴィンチ)による膵体尾部切除を、また2024年5月より膵頭十二指腸切除術も導入し、積極的に行っています。また、学会が承認するロボット支援膵切除のプロクター(指導医)が手術を担当しています。高自由度多関節機能鉗子。手ぶれ防止機能、高画質3D画像の安定した拡大視野など機能によって、直感的で精緻かつ自由度の高い手術操作が可能となり、腹腔鏡手術では技術的に不可能であった、より繊細は手術操作が可能となりました。手術の創が小さく、術後の回復が早いのが最大の特徴で、入院期間が短く早期に社会復帰が可能です。症例数は今後さらに増加することが予測されます。
ロボット支援膵頭十二指腸術
膵臓は胃の裏に位置し、お腹の中でも深いところ、後腹膜に存在します。また、周囲に重要な臓器・血管に隣接する、長さ20cm、厚さ2~3cm程度の細長い臓器です。外分泌機能として消化酵素である膵液を、内分泌機能としてインスリンやグルカゴンなど血糖をコントロールするホルモンを分泌しています。


膵臓の手術は高難度であり専門性が高いことが知られています。当院は学会に診療実績が認められ、膵臓や胆道、肝臓の高難度手術のhigh volume centerとして認定されています(肝胆膵外科高度技能専門医修練施設B)。膵頭十二指腸切除は膵頭部付近の腫瘍に対して行われる標準的な根治手術です。膵頭部はお腹の中でも血管・消化管・胆管が複雑に立体交差している部分で、解剖学的に十二指腸や胆管と連続しているため、膵臓だけを切除することはできません。膵頭部を切除するということは、すなわち十二指腸も胆管も切除することになります(膵頭部、遠位胆管、胆嚢、十二指腸を周囲のリンパ節とともに切除)。 複数の臓器を同時に切除することから体に負担がかかります。切除された臓器は再建が必要となります。膵と腸、胆管と腸、胃と腸それぞれ複雑な3つの消化管吻合(再建)が必要となります。



ロボット支援膵切除の手術風景

―ロボット支援膵頭十二指腸切除―


