胃がんと診断された方へ

胃がんの治療について

胃がんの治療法には、胃カメラを用いた内視鏡的切除(粘膜内病変を削り取る)、開腹もしくは腹腔鏡(ロボット支援下手術を含む)による外科切除(胃の病変部と正常部を一緒にとり、転移している可能性があるリンパ節を予防的に摘出します)、さらに抗癌剤を用いた化学療法(血液にのって胃以外の周囲臓器やリンパ節にひろがった、がん細胞に効果がある『全身療法』)があります。これらの治療法は、がんの病期(進行度)によって選択されます。

胃がん治療の基本は切除ですが、がんの転移・再発の予防あるいは手術によって切除が難しい人に対しては化学療法を行います。

進行度(ステージ)によって治療法を個別に選択する

進行度は、①がんの深さ(壁深達度)、②リンパ節転移の有無(個数)、③他の臓器への転移(遠隔転移,腹膜播種)の有無の3要素から分類されます(図1)。手術前に、内視鏡やバリウム、CT画像検査を行って、その結果からおおよそ(臨床分類)の進行度を決定します(表1)。この臨床分類の進行度に応じた標準治療を基本とし、本人や家族の希望、生活環境や年齢を含めた体の状態などを総合的に判断しながら治療方針を話し合って決めます(図2)。

最終的(病理分類)な進行度は、切除された胃の病変およびリンパ節の病理学的(顕微鏡を用いた)検査の結果をもとに決定されます(表2)。病理分類の進行度によって、手術後に抗がん剤治療が必要な場合もあります。

胃がんの壁深達度
図1:胃がんの壁深達度
遠隔転移 なし
(M0)
あり
(M1)

リンパ節転移深達度

なし
(N0)
あり
(N+)
有無に
関わらず
T1a/T1b, T2 I IIA IVB
T3, T4a IIB III
T4b IVA

表1:胃がんの臨床分類

遠隔転移 なし
(M0)
あり
(M1)

リンパ節転移の個数深達度

なし
(N0)
1~2個
(N1)
3~6個
(N2)
7~15個
(N3a)
16個以上
(N3b)
有無に
関わらず
T1a,T1b IA IB IIA IIB IIIB IV
T2 IB IIA IIB IIIA IIIB
T3 IIA IIB IIIA IIIB IIIC
T4a IIB IIIA IIIA IIIB IIIC
T4b IIIA IIIB IIIB IIIC IIIC

表2:胃がんの病理分類

胃がんの治療の選択
図2:胃がんの治療の選択

内視鏡的治療は粘膜内の比較的小さいがんを削り取る手術

胃の粘膜内病変(ステージⅠA)を内視鏡のみで切除(内視鏡的粘膜下層剥離術:Endoscopic Submucosal Dissection:ESD)し、大部分の胃を残せる機能温存手術です。しかし、粘膜下層に達しているがん、未分化型がん、潰瘍を有するがんなどリンパ節に転移している可能性がある場合は対象になりません。

外科手術は身体からがん細胞を完全に取り除く根治的な治療

他の臓器への転移がなく、内視鏡的粘膜下層剥離術が難しい場合には、手術による切除がガイドラインで唯一の根治術として推奨されています。外科手術には、従来から行ってきた20cmほどおなかを切開して直接目で見ながら行う開腹手術、おなかの1cmほどの小さい穴をいくつか作成し、そこから専用の器具で行う腹腔鏡手術、腹腔鏡手術をさらに進歩(鉗子先端に関節機能を有し精密な動きを可能にする)させたロボット支援手術があります。

胃がん手術は、切除範囲で主に3種類あります(図3)。

胃全摘術

噴門や幽門を含め、胃を全部取る手術です。
胃の機能がすべて失われるため、胃切除後症候群への対策が重要になります。

幽門側胃切除術

胃の出口である幽門側(胃の下の2/3から4/5程度)を切除します。幽門部周辺や胃の下部にできたがんが対象で、胃がんの手術で最も多く行われる手術です。
幽門を切除してしまうため、ダンピング症候群が起こりやすくなります。

噴門側胃切除術

胃の入り口である噴門側(胃の上の1/3から1/4程度)を切除します。噴門部周辺や胃の上部にできたがんに対して行われます。

さらに、従来では早期癌およびリンパ節転移がないことが適応となっていますが、近年では徐々に進行癌などにも適応拡大されています。

噴門を切除すると、逆流性食道炎が起こりやすくなります。 最近,ヘリコバクター・ピロリ未感染胃がんの発生率が高くなっており、胃体上部がん、食道胃接合部がんが増えていますので,本手術も増えてます。

胃がんの外科手術
図3 胃がんの外科手術

主な再建法

噴門側胃切除術

ダブルトラクト法

ダブルドラクト法

食道と残胃の間に空腸をつなぎ合わせます。

食べ物は食道から空腸を通るルートと、食道・空腸・残胃を通るルートの2つの通り道ができます。

食道残胃吻合法

食道残胃吻合法

食道と残胃をつなぎ合わせます。残胃から食道への逆流予防のために、つなぎ目に逆流防止弁のような構造を手術中につくります。

幽門側胃切除術

ビルロートI法

ビルロートI法

残胃と十二指腸をつなぐ

ルーワイ法

ルーワイ法

残胃と空腸をつなぐ

胃全摘出術

ルーワイ法

ルーワイ法

十二指腸の端を閉鎖し、食道と空腸をつなぐ

胃がんの化学療法

胃がんの化学療法には、大きく分けて「手術によりがんを取りきることが難しい進行胃がんに対する化学療法」と、手術後の転移・再発予防を目的とする「術後補助化学療法」があります。リンパ節転移の状況によって、手術前に「術前補助化学療法」が行われる場合もあります。胃がんの化学療法で使う薬には、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬があります。投与方法は、これらの薬を単独あるいは組み合わせて点滴もしくは内服で行います。

抗がん薬はがん細胞が増殖する仕組みの一部を邪魔することで、細胞障害性にがん細胞を攻撃する薬です。分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質などを標的にして、がんを攻撃する薬です。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を保つ(がん細胞が免疫細胞にブレーキをかけるのを防ぐ)薬です。

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